「うえあらぶる」より「上を選ぶ・・」

繊維業界にウエアラブルという切り口はあるか

 さきに本欄に、IT産業界や医療・介護業界から繊維業界に対し「ウエアラブルと云う切り口」でオファーが掛かる可能性大の現況にあるようだ――旨の記述をした事がある。

 ご承知の通り「ウエアラブル(Wearable)」とは、本来の意は「着用出来るもの」、つまり「衣服」そのものを指す英単語だが、多少の意訳をすれば「着用以外の目的を以って着用出来」、すなわち「複合的な着用目的を( 他業界が) 繊維に求めたニーズ」とも受け取れる言葉だ。

流れは、まさしく複合化なのだが・・

 分かり易い実例で云えば、義手や義足を、より円滑に機能させるため、これらに弾性繊維や形状記憶繊維を組み合わせる事で、出来るだけ、もともとの手足に近い使い勝手の良さを追求しようと狙ったものなどが、それに該当する。

 その他、IT業界では端末タブレットやスマホなどのより小型化が盛んで、眼鏡のフレームに組み込んだり腕時計型にしたりなど、留まるところを知らないかのような進化振り。従って、これらの業界からのオファーは、(フード付きの)パーカーやニット帽子、トレーナーなどへの、小型端末の組み込み(すなわちウエアラブル)――などが主なものだった。

 あれからちょこ一年半。筆者の預かり知らない水面下では、なお一層の「ウエアラブル(複合化企画と、その実用化)」が着実に進んでいる事だろう。

 話は少々脱線するが、「複合機能の視点」で捉えれば、世の中、なべて「複合機の時代」と云えなくもない。古くは洗濯機能とすすぎ絞り、および乾燥機能を一体化した文字通りの全自動洗濯機に始まり、カーナビゲーションシステムはCDやDVD、ワンセグTVの一体型が通常仕様であり、コピー機もFAX送信機能や文字・図形データの読み取りアナライザー機能付きが一般的であるなど、実例にこと欠かない便利な時代でもある。そうした流れを念頭に、アパレル製品、特にカジュアルファッション衣料分野における、これら〝異業種交流〟による「複合ウエアラブル・ウエア」の開発・実用化が、新たな需要発掘、マーケット開拓につながれば良いが・・・と願ったものだった。

 だが待てしばし。あれ以後(執筆後約一年半経過後の現在だが)冷静に考えてみて、やや思いの中身が変化した。また、そうした目つきで街頭ウォッチングや、専門店、百貨店などの〝ウインドウ・ショッピング〟を重ねた結果、「ファッションものづくり企画」の場合は、「なまじ複合化など狙わない方が本筋かな?」と感じ始めたのである。

 もちろん、多種多様な弾性繊維や炭素繊維、ナノ・テクノ素材原料、形状記憶素材などの各種原料素材メーカーは、それこそ〝新時代の要請〟なのだから、引き続き繊維業界を代表して、それら〝異業種交流〟による高度なニーズに、しっかりと呼応して貰わねばなりませぬが・・・。

二兎を追うもの一兎も得ずか・・・シンプル イズ ベストがいい

 さりながら、フツーのファッション衣料製品メーカーは、従来からのものづくり路線を踏み外す事なく、原反や編地の特性を活かし、裁断・縫製技術の徹底追求による端正なシルエット出し仕事に、これまで以上に、磨きに磨いたウデを発揮するべきではごんざりませんか(どこの言葉や)と思い直した次第。カジュアルウエア分野における「ウエアラブル複合機能衣服」による新商品開発への道は、残念ながらひとまずあきらめると致しますか・・・。

今しばらくは本筋部分のものづくり拡充路線で行きますか・・

 実際問題、街中で行き交う人々のファッションを眺めた場合、肩からウエストにかけてのラインは造形美を伴いつつすっきり、ケレン味なく貫かれていた方が見た目にも良いし、襟は、あくまでもしゃっきり立っていた方が好ましい。実用面とアクセントを兼ねた役割のポケットやタック、お洒落ベルトのたぐいも、全体のフォルムを引き締める大事な役目を担っているが、これとても「くどい」のは却って逆効果、ほどほどが宜しかろう。例えば、一時期、セーターの前身頃にアップリケなどのモチーフを4~5箇所くっつけたり、デコデコのジャカード( 各種インターシャ柄を含む) ものがモテはやされたトレンドがあったが、その後は、グンと落ち着いたケーブル編みを主体とする洗練された味の無地柄が定着し、完成度を高めつつ現在に至っている。これひとつを捉えても、やっぱり「シンプル イズ ベスト」は名言ですかなぁ・・。

オフィスふで箱 代表 下谷 洋司

【再掲】「ちょっと一言」,ニット・ファイル通信 Vol17,2015