「刺繍」や「ニット」で救う明るい未来

ユニバーサル・デザインの表示マーク創りには、刺繍がピッタリ!

                           □□■ フリーライター 岸本尚子

 ユニバーサル・デザインとは「普遍的な」とか、「全体の」、と云う形容詞が示している通り、「すべての人のためのデザイン」を意味し、年齢や障害の有無などにかかわらず、最初から出来るだけ多くの人が平等に利用可能であるようにデザインすること、もしくはデザインされた形を云います。なかでも、体が弱い人や歩行障害などがある人、体の大きい小さいなど、さらには言語障害や視力、聴力に問題があるとか、外見上は支障がなさそうだが目に見えないところで差し障りがある、例えば妊娠初期の女性など、いろいろハンディキャップを背負っているがために自身や社会的に不利益を被っている人たちにも、出来るだけ平等で快適な生活を送って貰えるように工夫したデザインによる衣服であり、器具であり、交通機関や道路・通路を含む建物全般の設備などを指します。

 「車椅子で乗車可能なバス」や「公共施設での安全確保の順路の矢印」などはその代表的事例ですし、ハード面だけに限らず、「情報」や各種の〝ソフト〟「サービス」にも幅広く及んでいるユニバーサル・デザインは、それこそ「思いやりの心」に根差したもの。近年、

一般市民生活の中での理解度が急速に高まって来ている事は、周知の事実です。

 適用対象は、前述の通り多岐に亘りますが、ただ少々難しいのは、これまた具体例として挙げた、「妊娠初期段階にある女性」などを、周囲の人々がどうサポートしてあげられるか・・です。その点に関しては数年前にも着目されており、いくつかの方法が考えられ実行されたようで、厚生労働省が国民運動計画「健やか親子21」推進検討会において、妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保を目指し、「マタニティマーク」を発表していますがそのひとつが手のひらサイズくらいのマタニティマークです。何故かあまり世間的に受け入れられず、現在ではほとんど見かけませんが、付けていない理由は心無い逆差別があるようです。

 さて、そうした経緯があるからこそ、ここで「ユニバーサル・デザイン」をもう一度見

直し、考えてみませんか。それも、特に刺繍加工技術を駆使したデザイン表現を・・・です。

「思いやり心」を呼び覚ます表示デザインマーク

 東日本大震災のときは、ハート型で「3・11」や「絆」の文字の「刺繍」が大量に作られ、これは「応援しているでぇ~」という気持ちの表れとして評価され広く行き渡りましたし、その売り上げの一部は救援資金として寄付されたと承知しています。

 また車の運転免許を取りたての人が乗る際には初心者マーク(通称、若葉マーク)を貼ることが法令化されており、それに高齢運転者マーク表示も義務づけられています。考えてみれば、そのマークこそ「ユニバーサル・デザイン」のひとつだと思います。

 この考え方からすれば、特に表面上はそうだと思えない障害のある人、すなわち妊娠「刺繍」や「ニット」で救う明るい未来初期の妊婦さんのお腹が目立たない事例などは、外見上〝健常者〟と受け取られ易いのですが、周囲の人たちに対し、口ではなかなか「私は妊娠中

です。」とは言えないだけに、黙っていても一目でそれとわかかる、〝若葉マーク〟的告知機能を持った表示手段が必要になる対象だと云う事が出来ましょう。何しろ、5ヶ月過ぎの

安定期までは流産し易いとされていますので、当然無理をしてはいけない時期にある状況を、周囲にさりげなく知らしめる事が大切なのです。

 また重い糖尿病などで突然の低血糖値となり昏倒した場合にも、仮に本人が喋れなくても、周囲がそうと察知出来る表示ワッペンの有無は、生命に関わる問題に直結します。この場合はインスリン用の注射器などをデザインしたマークを着けていれば、救急隊員も病名が分かって的確な応急処置が出来、搬送すべき病院も探し易いと考えられます。

(イメージ写真)

社会的影響にも配慮しながらの提案が大切・・・

 また、特に最近では見た目だけでは分からない「認知症」の人が徘徊し行方不明になる

ケースも多くなっています。個人情報尊重の観点から厄介「刺繍」や「ニット」で救う明るい未来な面もあるのでしょうが、警察や自宅への連絡が可能な限り早くつくようにする事が何より大事です。住んでいる区名や町名、苗字などを簡潔に表示した、少し大きめで認知症と分かるユニークなデザインのワッペンを、ご本人の着衣に添えておけば、家族の心配を少しでも減らす上で大いに役立つ事でしょう。但し、この事案は、「明らかに認知症だと分かってしまう」デザインものを着けると、犯罪に巻き込まれる危険性も考えられますので、警察や病院などと相談しながらデザインや表示方法を熟考しなければならない点が悩ましいところであり、物騒で嫌な世の中になったものです。

 余談ながら、以前に「恍惚の人」や「認知症」と云う名称は、「痴呆症」と称され、学術用語としても使われていましたが、高齢化社会の広がりの中でそれが〝差別語〟だと批判されるようになり、2004年に行政用語としての「認知症」と云った名称を使用して欲しい旨、新聞やテレビ媒体などのマスコミ業界へも要請され、現在に至っています。

 そうした点も踏まえ、健常者からいろいろな不平不満の声が聞こえないように考えた、ユニークなデザインワッペンやエンブレム感覚のマークなどを刺繍業界から提案・発信し、またニット生産業界でも、目に見えない心や障害を知らせるための刺繍やプリントデザインを工夫したTシャツやセーターなどの企画に取り組んでみては如何でしょうか。

 そこで一句。

  刺繍を着けて思う人の

     熱い情けと思いやり (字余り)

【再録】 (初出)ニット・ファイル通信 Vol16,2015、フリーライター 岸本尚子