ハイブリッド・ニットの創出を考えてみよう

■□□ 岸本未来 □□■

「ニット生産業界における大きな変化」

 衣料業界の市況は、店頭不振・低価格指向の浸透が最大の特徴となりました。グローバル化が進む中での芳しくない市況。しかしこうした市況下において、大きな生産・流通の変化が起こっている事が注目されます。アパレル業界は、旧来の卸ビジネス中心のあり方から、SPA化を進めて来ましたが、そのSPAのメーン舞台であった百貨店が流通の主役の地位を脅かされる状況になっています。しっかりした品質を維持しながら低価格を実現している専門店チェーンの業態が少しリードしています。

 ニット生産業界に於いても大きな変化が起こっております。生産量が減少する中で低価格指向が強まり、生産業者の収益は一段と悪化しているのが実情です。OEM生産一辺倒の見直し、海外市場への展開、小売りないしは消費者へのアプローチなど、これまでも取り組まれていた事ですが、長いスパンで言えば、コアビジネスの転換にもつながる事業展開をも予想される状況となっています。

 2014年が、市況低迷の中で嵐が通り過ぎるのを待っていた年だとすると、2015年の今年は、同じ厳しい市況にあっても、それぞれの企業が進む方向を明確にする年ではないでしょうか。過去のように業界が、こぞって同じ方向を目指すと云った事は、今後はあり得ないのでは・・と思われ、それぞれの企業が、自社の得意技、歴史背景、経営資源に見合った今後の道を探っていくべきでしょう。

 その中で考えられる道であるヒット商品創出や、成功するための必要な条件とは何でしょうか――。

写真:前身頃はレース、後ろ身頃はニット

「新しい言葉への興味」をテコに

 その一つは、消費者が潜在的に求めている何かを発見し、充たす事です。しかしこの〝お宝〟は、簡単には見つける事が出来ません。多くの場合、自分自身では気づいていなかったり、うまく言葉に出来ないもやもやした感情だからです。

 では、どうやったら対象者(消費者)自身に気づいて貰えるのでしょうか? これは難問ですが、人は新しい言葉や新しいものに興味を持ちます。だとすれば、ここで一つのアイディアとして「ハイブリッド・ニット」などを考えられないでしょうか。ハイブリッドは、近年、エコ対応のクルマが代名詞の様な使われ方がもっぱらですが、もともとは一般の産業界で幅広く使われる用語で、「組み合わさった」とか「混合の」などの意味です。

ハイブリッド

 語源は親戚どうしである「雌豚と猪のかけ合わさった雑種」であるとされ、本来、良い意味でも悪い意味でも使われる言葉で、「ごちゃまぜ」と云うニュアンスもありますが、いづれにしてもハイブリッドは、車だけの〝専売特許〟ではありません。生物学、を始め、ハイ・テクノロジー分野に包括される工業製品、電子工学、計算機工学、IT、放送技術、動力、システム工学、環境、再生可能エネルギーなどと、適用範囲は多種多様ですが、残念な事に、その中に「繊維」は含まれておらず、ましてや「ハイブリッドのニット」は〝蚊帳の外〟でした。

ハイブリッドのニット

 しかし、少なくともこれまではニット業界に適用されていなかったこの名称、「ハイブリッド」が、やがて広く業界で使われる時が来るでしょう。と云うより、是非とも使われるよう、業界挙げて働きかけていくべきだと思います。

 例えば西部劇の中に登場する男性の下着は、シャツとズボン下とが繋がっていて、シャツの胸辺りから左右の脇に腰までボタンが付いているモノを見かけます、腰あたりから穿いて着るオーバーオールのような形の下着なのです。このように

これもハイブリッドかな?

 別々のものを一つにし、機能性を高めた実例は、すでに立派な「ハイブリッド製品」なのですが、これまで特にそうだと〝意識されて〟いたわけではありませんでした。

 こうした過去の事例の掘り起こし提案を行っていく事と並行し、ニットのベストがセーターになるとか、手袋付きセーターなど、それぞれ違う商品が組み合わさった一つの商品になる事などを提唱するだけで、新鮮な感覚を備えた「ハイブリッド・ニット」商品群が確立されるのです。

 そうそう、云い忘れましたが、横編み生地や丸編み生地と布帛またはレースや刺繍の組み合わせによるニット製品は、随分昔から出回っていたものの、取り立てて「ハイブリッドもの」とは意識されませんでした。しかしながら、これら異素材の組み合わせもの製品は、まぎれもなく「ハイブリッド・ニット」なのです。

改めてHPの効用を見直そう

 このように、ほんの少々異なる視角で業界を見詰め直した上で、それを広く世間に訴えて行く手段としてのインターネットの活用も重要な課題です。

 インターネットによる販売手法は、これまでの生産・流通の垣根を打ち破る力を持っています。この先、それら広義の無店舗販売市場のスケールも、一段と拡大していくことが考えられます。これこそ大きなビジネスチャンスです。

 このチャンスを確実に掴み取るための具体的方策としては、ニットメーカー同士が集まる〈ものづくりコミュニティー〉のような仕組みを作り、英智と技術を結集する事が有効と考えられますし、その〝広報手段・ツール〟とすべきはネット上のホームページ(HP)です。そうしたコミュニティーにふさわしいHPのネーミングは、例えば「つくる・じゃぱんニット・コミュニティー」などが良いのではないでしょうか。

 無論、HPは昨今、どこの企業も保有していると云って過言でありませんし、全国のニット業界関連の各組合でも、組合員企業の紹介にあてるなどいろいろと活用されていますが、これとは別に、単独の「つくる・じゃぱんニット・コミュニティー」としてのHPを立ち上げ、仲間を増やしていく事に意義があります。 先人の言葉の一つに「最高に到達せんと欲すれば最低から始めよ」・・・がありますが、なかなか示唆に富んだ教えのように思えます。この言葉に触発された訳でもありませんが、筆者はフとこんな言葉を思い浮かべました。

仲間とヒット商品を考える年 2015 年

 ニットは、最初は裾、最低の部分(下)、から編み始め、ネック最高の部分(上)に向かって編んで行きます。編めば編むほど上に行く仕事なのです。ニット業界が上を行く願いと夢をこめて・・・。

【再録:フリーライター 岸本未来、ニットファイル通信Vol.14,2015.1 】