卸商の新しい方向(卸商社名鑑 1974)

《はじめに ニット・ファイル通信 ライターから・・》

今日のサマ変わりした卸商社の企業業態を、本稿が、卸商社名鑑〝ニット篇〟(1974)に発表された昭和49年(1974年)当時、誰が想像出来たであろうか・・・。

大型スーパーや百貨店は合併事例が相次ぎ、卸商はメーカー業もこなす方向にあり、製造メーカーの売り先はダイレクトなルートが増加しているなど、かつての川上、川中、川下と云った業態区分が自然発生的に取り払われ、役割分担を含む境界線がはっきりしなくなっているこの現状を・・。(Web版注:京橋松蔵 2015)

■■□ 卸商社名鑑〝ニット篇〟(1974) 抜粋 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

大型化、多様化する小売業への対応

スーパー・マッケットの出現を機にわが国の小売業は〝流通革命〟という言葉が決して過大ではないほど急速な変化を遂げた。とくに大量一括仕入れによる仕入れコストの低減を売価に反映させ、既存の市中小売商の売価を下回った価格で販売する事によって量的メリットを追求しょうとするスーパー商法は〝ディスカウント・セール〟と云う事で、小売業界に旋風を巻き起こした。

この商法の出現当初は〝スーッと出てパーッと消える〟などの悪口が出るほど、泡沫企業が続出したが、次第に整理され、現在では、従来のわが国大型小売業の代表であった百貨店をしのぐほどに巨大化した。それと共にわが国小売業のパターンも大きく変化した。

巨大化した量販店は資本力にモノを言わせ積極的な多店舗化を進める一方、尨大な販売力を背景に流通経路の短絡化を図り、直接生産段階にまで支配力を及ぼし始めている。

(イメージ写真)

専門小売店は新しい小売店像として

量販店の出現は小売店業界の勢力図を大きく塗り替えつつある。これまで業界の玉座に君臨していた百貨店は、今やその座をおびやかされ始めており、一方、中小零細小売業は、しばしば存立基盤を揺るがされている。そうした中で専門小売店は新しい小売店像として浮かび上がり、量販店とは別の意味で成長し続けている。

専門店成長の背景には消費の高度化、多様化と消費者の個性化という事を見逃すわけにはいかないだろう。量販店の伸長は一面では消費の均一化を強いてきたわけだが、一方、消費の方は所得の増大とともに高級化し、繊維衣料品のように需要の中心層が若年層に置かれているものは、需要層の個性化と共に小売業界も個性化が求められるわけである。

量販店が一般にボリューム商品を取り扱いの中心におき、量のメリットを追求するのに対し、専門店はより専門化、高級化の方向に向かっている。それとともに専門店でも大型化したところでは、多店舗化、チェーン化の方向を目指し始めている。

もっとも専門店の場合、まだ量販店のように資本力にモノを言わせて、直接生産段階までに支配力を及ぼすまでには至っていないが、次第に商品企画機能を持つようになっている点を看過するわけにはいかないだろう。

自社ブランド(プライベート・ブランド)重視の政策に転換

量販店、専門店といった新しい小売勢力の台頭は、小売業界に大きな変革をもたらせたが、それと共に卸売業界にも微妙な影響を及ぼし始めている。特に大量一括仕入れと、流通経路の短縮化によって仕入れコストの低減を図る量販店は、これまで部分的には生産業者からの直接仕入れを実施していたが、次第に自社ブランド(プライベート・ブランド)重視の政策に転換し始め、単なる生産段階への支配のみならず、商品企画、マーケティングにまで力を及ぼし始めてきている。特に一昨年から輸入ブーム、発展途上国の加工基地化の進展は、量のメリットを追求する量販店にとって極めて有利な環境となり、巨大な商社資本とのタイアップによって、加工基地から直接製品を仕入れるようにさえなってきている。こうした傾向は必ずしも発展途上国だけではなく、衣料品の場合など、最近は欧米先進国メーカーと直接導入契約を結んだり、生産技術に関するライセンシーを取得し、国内生産者にサブライセンシーを与えることによって、生産段階の支配に乗り出すケースさえ出てきている。

一方、専門店の方でも、直接生産段階に対し支配力を及ぼすまでには至っていないにしても、独自の商品企画力を養ってきており、次第に生産機能、商品企画機能、販売促進機能といった、本来卸商の領分とされていた範ちゅうにまで、影響力を行使してきているといえる。

卸商本来の諸機能強化

こうした小売商の力の増大は、ともすれば既存の流通システムの概念からは逸脱した形で生産、中間流通段階を圧迫する面すら出てきている。確かに現在までのわが国の繊維流通は、これまでに眺めてきたようにかなり複雑な面があったといえるが、それが〝問屋無用論〟に直接つながるほど複雑かつ無用なものであったとは考えられない。むしろ卸商本来の収集・分散機能、品揃え機能、危険負担機能、保管機能、安定供給機能、商品化機能といった諸機能は、こんご流通近代化の中でますます強化されて行かなければならない問題であろう。

小売業がいかに巨大化し、卸商本来の機能をも具備するようになったとしても、それでこれまで卸商が果してきた機能を全てカバーする事は出来ないはずだし、仮にそれを実行した場合は、今以上に流通システムが複雑化していくであろう。

(イメージ写真)

需給バランス調整機能

卸商の機能の中でも特に大きなものは、需給対応機能、保管機能、安定供給機能といった諸機能はいずれも綜合して需給バランス調整機能という事が出来る。小売業がこれらの需給バランス調整機能の全てを具備したとして、果たして流通コストが現在より低減するかどうかは極めて疑問である。流通近代化と云うのは、流通経路の短絡化のみが必要十分条件ではないし、〝問屋無用論〟との同義語でもない。もちろん不必要な流通経路の迂回は避けなければならないが、決して中間排除がすべてではないはずである。

今後の流通活動近代化の過程で、卸商が果さなければならない課題は、卸商本来の機能を強化すること、特に商品企画機能、販売促進機能、情報収集機能、生産機能といった、近代卸商が具備すべき諸機能を整備、強化して行かなければならないだろう。

それとともに年々激化する労働力の逼迫、特に流通部門への労働力供給の減少を考えた場合、増大する販売量と不足する労働力と云うこの矛盾を解決するためには、抜本的な省力システム、効率的システムの導入、販売技術の革新などを進め一人当たり年間販売額の大幅な増大を図る以外に方法はない。

とにかく生産部門が設備の近代化、合理化を図り、生産の高度化を図り、一方、末端流通部門も次第に機械化、省力化をおし進めながら、近代小売業を形成しつつある現在、中間流通段階に位置する卸商としても、生産、小売両部門の近代化と歩調を合わ

せつつ、各段階にわたる近代化を進めて行く必要があろう。

【出典:卸商社名鑑〝ニット篇〟1974.9㈱センイ・ジヤァナル発行。再録:第5回交差点,ニット・ファイル通信 Vol.14,2015.1(原文整理:フリーライター 京橋 松蔵)】