「製造メーカー」と言うことば

馬から落ちて落馬して

 読者から一通のメールが送られて来ました。

 その内容とは『貴誌上にしばしば登場する「製造メーカー」と云う単語に、ふと疑問を感じる瞬間があります。「製造」も「メーカー」も結局は「作り手」を意味する言葉で、それが一つの単語に包括されているのは、言葉のダブリではないのか』――との疑問と、それに関する質問でした。確かにご指摘の通り・・・。私たちが普段何気なく使っていた単語や用語ではあったのですが、改めて提起されてみると「なるほどネ」・・・。それが今回、この記事を掲載するきっかけになりました。

 タイトルに掲げた〝落馬〟の事例は、昔から〝記者の仲間うち〟で戒めの一つとなっている「重複言葉」の典型的な見本ですが、「製造メーカー」もまさしくそれではないかと云う事です。

「ニッター」をどういいかえるのか

 何故この言葉を使ったかと云う詳しい記録は残っていませんが、おおよそ、その経緯は次の通りではないでしょうか。すなわち、「センイ・ジヤァナル」の前身である「メリヤス週報」時代から読者層も次第に広がり、ニット業界を始めとし、織物業界や多種多様な流通業界も取材先になってくれていた発展史の中でも、当時のメリヤス業界においては存在感を主張するまでの力に乏しく、自社製品を買いに来てくれるのを待ちつつ、もの作りしている業者、ないしは下請けに徹して、ひたすらニットを製造している業者を、その昔は「ニッター」と称していましたが、しかし段々とニット専業ものづくり業者(企業)はそれぞれ立派に自己主張出来るだけの実力と、そこそこの企業規模を備えるところが大半を占める世の中になって来ていましたから、ニュース記事などで「ニッター」を取り上げる場合にどう表現するか?となった時、「胸を張ってメーカー」と云えるところが、どれだけあるのかと、当時の先輩達が編集会議で議論を交わし、悩んだ末に、誰云うとは無しに衣料品を製造する業者(企業)を総称して、「製造メーカー」との言葉が生まれ、まぁ、この辺りが無難か・・・となったようです。

イメージ(メリヤス週報等当時の新聞)

 この「製造メーカー」と云う用語は当時のセンイ・ジヤァナル紙のバックナンバーなどをよくよく調べてみると、かなり頻繁に使っています。これはあくまでも筆者の推察ですが、「一般的な世間」と「業界」との言葉の違いであり、いわゆる〝業界専門用語〟の一つであり、独特の「言葉」を考えたのではなかろうかと云う事です。

 また筆者の経験で云えば、先輩記者たちが、言わず語らずのうちに慣例化していた姿を見て、筆者も自然にそれを認識して現在でもそれを使っていますが、しかし現在では「ニッター」と云う業種名は、ほとんど〝死語〟になっています。

多様化する「メーカー」の識別も大変です

 ものごとのついでに申しますと、「メーカー」とは、自社のブランド(商標)やチョップを有してものづくりしている製造者のこと。さらに言えば、卸商などの力を借りなくても、場合によっては、自力で自社製品を売るだけの力を持ったところを「メーカー」と称しています。

「製造メーカー」と言う単語

 それが良いとか悪いとかの問題ではなく、これは特に繊維業界で定義づけられている用語のひとつなのです。その後の繊維業界の発達過程で、いろんな「メーカー」が輩出し力をつけてスソ野を広げてきており、それらの業種と区別する必要にも駆られていましたから・・。

 ざっと挙げても「原糸メーカー」、「合繊メーカー」、「紡績メーカー」、「アパレルメーカー」、「染色加工メーカー」、「刺しゅうメーカー」、「マシンメーカー」などなど。それに少し前までは「テーブルメーカー」と云うのもありました。但しこのメーカーは「テーブル(机)」を作っている業者でない事は申すまでもありませんが、一般社会では、まず使われていない繊維業界用語です。

時には常識枠を飛び越えての使用例も

 その他、小売業界が、時として卸を「メーカー」と称する場合があります。これは多分に慣例的で感覚的なものですが、自分が商品を仕入れる相手は、取り次ぎ卸であろうと、実際の製造業者であろうと、一向に構わない。要するに小売業態にとっては、品物が入手出来る相手先は誰であれ、感覚的に殆ど「メーカー」だから、単に、そう称しているだけなのです。業界用語・慣用語などと云うものはフレキシブルで面白いものですね。

編んでいるのに「織り屋」

 ついでに云えば、当時メリヤス業者の間でしばしば耳にしたのが、ジャージィ編み立て業者を「織り屋」と呼んでいました。「ニット生地」を編んでいる業者なのに「織り屋」とはこれ如何に? さらに面白い事には、「カット・ソーン業者」の事を「裁縫屋」とも、呼んでいました。今の若手業界人に、そんな呼び名は殆ど通用しない言葉です。

 そうした歴史的流れをも踏まえた上で      本誌    では、横編や丸編、および布帛製品など、さらにはニット生地(ジャージィ)を生産する業者(企業)を、引き続き「製造メーカー」と表現・表記する事と致しますので、何卒ご了承のほどお願いします。

 但し、同じ「メーカー」でも「トラブルメーカー」だけは、願い下げにして戴きたいものですね。

 (編集長・谷本義広)

《初出》「ニット・ファイル通信」Vol.17 2015.10 (再掲にあたり一部表現、見出しを変更、加除しています。)

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